じき眠る夕暮れ

2021.2.16

今から書く文章はもしかしたら、多くの人にとって寄り添わない、少し大味で、乱雑な文章になるかもしれない。それは、今私が立っている場所と限りなく重なる位置から見える風景を、より確かな言葉で表現したいために他ならない。今日はなんだか、印象深い日だった。浮ついて、楽しくて、それと少し切なかった。

 


着信音で起床した。携帯を見ると、相手は大西だった。着信に応じつつ時間を確認すると、13時半。よく眠れたような気がする。大西はいつもの調子で「今何してたー?」と聞いてくる。「寝てた〜〜この電話の音で起きた」と返す。「大学の部室とロッカー、片付けに行かない?」

そうだったー大学のロッカー片付けなきゃいけないんだっけ、もう2年くらい開けてない気がする、鍵の番号覚えてないかも、何が入ってるんだ一体、とか思った。

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その1時間後に家を出て、15時くらいに相原に着いた。えらく久しぶりに来た気がした。ていうか実際この駅で降りたの3ヶ月ぶりとかな気がする。いつも通り寂れていて、何もなくて、小さなお店が少しだけあるような町。でも、人がやけに少ないような気がした。前からこんなに少ないんだっけ。大西がこちらに気づくなりイヤホンを外しながら近寄ってきた。私もイヤホンを外した。ファミレスで遅めの昼食の予定だったけど、道の途中で大西が「あ、ここもあるなー」と言って立ち止まった。どうやら新しくできたらしい、私の知らない個人経営っぽい小さなレストランだった。ここにしましょう!と思った。この表に出てるメニュー看板に書いてる牛カレー食べたすぎの気持ちになっていたから…。お店は決まったけど、みやけとヒナタがまだ合流していないので、外で立ち話をして時間を潰していた。私は大学でまたセッションをするだろうと思って、ガットギターを持ってきていた。大西はそれを見るなり、「どこか怒られなさそうな場所で弾こう」などと言い出した。普通少し考えるけど、この静かで寂れた町では賛成だった。きっと彼も、この町じゃないとそんなこと言い出さないだろうな、と思った。

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迷惑にならなそうな場所を探しながら少し歩いた。正直どこも、あまり迷惑にはならなそうだ。どこを歩いても、人が起こす音や気配は私達自身からのものだけで、あとは全部が自然の音だった。この住宅であろう建物や、小さなスナックのような建物などに、本当に人間が入っているのだろうか。大西は私のギターを大事そうに抱えながら、楽しそうに歩いている。結局、駅前の広いスペースの端になった。1番開放的で、1番なんでも許されそうな場所だと思った。大西は本当にギターが好きだ。嬉々と取り出して優しくアルペジオを奏でた。とにかく空が大きかった。全てなんじゃないかと思うくらい、深かった。だから、自分たちまで溶け込めたような気になって、これは空の音だと信じてしまった。

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みやけとヒナタが合流した。大西やみやけやヒナタと会うのは1ヶ月半ぶりくらいで、顔が見られて嬉しかった。みんなあまり変わりない様子だった。さっきのレストランに入った。おしゃれで静かで、暖色の光が心を落ち着かせるような空間。オーナーさんも店の雰囲気と同じように、静かで優しい方で、私たちが入店した時は一人で切り盛りしているようだった。それからいつもみたいに、いつも、というほど会えていなかったけど、世間話とか、音楽の話とか、共通の友人の話とか他愛ない話をしながら昼食を食べていると、しっしーが話題にあがった。しっしーどうしてるだろう、半年くらい会ってないから、しっしーの近況なにも知らないな、と思って聞いていたらどうやら、アーティストとして生きていくことに決めたようだった。創作意欲に溢れ、展示も控えているそうだ。「あのしっしーがねえ…どうしちゃったんだろうね」とみんな口を揃えた。しっしーは卒制でも、造形賞がノミネート止まりで、声をあげて悔しがっていたそうだ。ノミネートされただけでも凄いことだと思っていたから、それで悔しがるなんて、きっと本気だったんだろうな、と思った。その話を聞くと、確かに今までのしっしーとはまるでモチベーションが違う。ただ実際、彼の卒制はとても良かった。みんな、「どうしたんだ」と困惑しながらも、彼のことを気にかけ、応援している気持ちは同じだった。みんなはしっしーのことが相変わらず好きなのだ。私は少し切なかった。しっしーは、今はきっと、半年会っていなくても、限りなく近くにいる存在だ。初めて会ったときから、そういうふうに感じていた。でもなんとなく、これから時間をかけて少しずつ、遠くに行ってしまうような気がする。それはきっと、彼にとって悪いことではないけど、少し切ないことに変わりはなかった。私もどこか、遠くへ行きたいと思った。

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昼食を食べ終えた私達は、大学へ向かった。ガラガラの通学バスの最後尾の席に4人並んで腰掛けた。それすら、なんだかもはや懐かしかった。私達はみんないつも、空いている限り、自然と最後尾の席に座るのだ。

通学バスの車窓から見える風景は、とにかく緑が多い。私たちの大学は山の中にあって、とにかく自然が多いのだ。この地の風景を写真に撮って誰かに「東京の写真だよ」と言って見せても、信じる人はいないだろう。そのレベルだ。ていうか位置的にはもはやほとんど神奈川だ。


大学に着いた。春休み中だしコロナの問題もあるので当たり前だがまるで人がいない。なんなら人間よりも猫の方が多く存在している。今にこの大学は猫に支配されてしまうだろうな、と思った。なんだか人の気配を感じない大学は、まるで時間が止まっているようで、絵の中の世界みたいだと思った。でもそこには確かに気温があって、風があった。ずいぶん日が傾いていた。人がいた頃のこの場所は全部が過去な気がした。きっとそんな訳はないけど、この場所にもう人が戻ることは無い、と言われても、間違えて信じてしまいそうになるくらい、何もかもが静かで、ただ風だけが、芝生の広場を好き勝手走り回っていた。

ここは、学祭でライブをしたり、友達と放課後にバドミントンをしたりした芝生の広場。空が大きくて、落ち着けるベンチもあって、多分この大学にはこの場所が嫌いな人はいない。私もこの場所からよく空を見た。何故か、記憶に出てくるこの場所から見た空は、曇り空ばかりだ。今日は雲ひとつ無い明確な茜色が夕刻を告げていた。ここで空を見るのはこれが最後だったりして、とかあんまり思いたくないけど、ふと、思ってしまった。


私達は絵画棟に入り、部室へ向かった。建物内に入っても、やっぱり人はほとんど見当たらなかった。部室の壁には、私たちが映ったフィルム写真やチェキとか、大西がデカデカと印刷されたライブのポスターとかが所狭しと貼り付けられまくっている。大西が「僕たちがいなくなったら、誰だよこれ、とか言って剥がされちゃうのかな〜」と寂しそうに言う。「そうかもね〜」とみやけが笑う。「いや、きっと剥がされないよ、剥がす労力が無駄だから」と私が言う。ヒナタが「上から貼るっしょ!」と言いながらソファに腰掛けた。私達の会話はいつもこんな調子だ。3年間くらい。腐りそうになるくらい入り浸ったこの部室とも、もうお別れなのか。まだお別れできていなかった気も、随分前にお別れしてしまった気も、どっちの気もして、不思議な気持ちになった。

 

ロッカーを片付けに行った。大西はロッカーから課題で作った足の彫刻とか、絵とか、いろんなものを取り出しながら、「なんか色々、やってたんだな〜」と言った。そうだね、と思った。大西は多分、課題で作ったものとか、あまり捨てられないタイプだ。課題の作品を抱えて「これどうしよ〜」と言っていた。ヒナタとかは普通に捨てられるタイプっぽい感じがする。私も結構捨てちゃう。みやけはそもそもアナログでものを作らない。


その後防音室で適当でささやかなセッションをした。防音室の倉庫から出てきたカホンめっちゃいい音だった。大西がカホンを叩いて私がギター弾いたり、逆に私がカホンを叩いて大西がギターを弾いたりした。みやけはずっとベースを弾いた。ヒナタはiPadでイラストを描いていた。最近ホロライブのファンアートイラストがバズったらしく、ご機嫌だ。そうこうしている間に外はいつのまにか完全に夜だった。ヒナタの「おなかへった〜」が大学を出る合図になった。私も(お腹ヘリウム)と思ったけど、口には出さず、思うだけにしておいた。大西がサカナクションのワンダーランドを口ずさんだ。大西お得意の、ほとんど歌詞を覚えていないフニャフニャワンダーランドだったが、サビの「ワンダーランド」という歌詞の部分はタイトルにもなっている上メロディが耳に残るのもあって全員が歌えるため、その箇所だけみんなで馬鹿デカい声で「ワンダーランド!!!」と歌って、笑った。私達はいつもこんな調子だ。3年間くらい。


大学のバス乗り場までの暗い道を歩いた。さっきも書いたけど、この大学の構内には猫がよくいる。大西やヒナタは猫を見かけると執拗に歩み寄りちょっかいを出しにいくことで有名だ。私はこの4年間の大学生活の中で一体何回、逃げる猫を追いかける彼らの後ろ姿を見たんだろう。

 


私達は来月この大学を卒業する。でも悲しいことに、随分前にもう既に、この大学での日常は失われ、終わってしまっている。各所で静かに眠るように、思い出がたくさんある。その場所の空気を吸うたびに、それらは少しだけ目を覚ます。最近、そういうことが多い気がする。過去があまりにも過去で、遠いから、遠くを見るようにする。そうすると、何かを思い出す。広場から見た曇り空、絵の具まみれの両手、カフェテリアの抹茶タピオカミルクティー、土で汚れたエフェクター、カメラを構えるあの子。そして、私は多分、帰り道で、そんなこととは全然関係のないことばかり考える。思い出とは、それくらいの関係性でいい。あの頃に戻りたいとか、あの頃の日常をまた送りたいとは、全く思わないや。本当に楽しかったけど、きっとそれくらい、今のことに必死なのかもしれない。それが良いことなのか、悪いことなのか、どちらでもないのかは、正直私にはわからないけど。

 

 


ここまで読んでいる人〜!多分いないかもしれないけど、元気ですか?いないかもしれない人にも、私は遠慮なく呼びかけていくよ。元気ですか?などと、月並みな挨拶をしてごめんなさい。私は元気じゃないです。多分。元気かも。わからないや、私が元気がどうかは、今後の動向によります。あと、日によります。まだまだ寒いね。今日も日中は過ごしやすかったけど、夜は超寒くて、泣きそうだったよ。ハイボール飲んでいなかったら、確実に泣いていた。2月くらいって、春が来たら溶けてしまいたい、みたいな気持ちになりませんか?なりまーす。

みんな〜〜〜!!!!!!私はきっと、みんなが思っているよりも、みんなのことが好きだと思います。だから、「つぐみちゃんは私のこと、好きなんよね♪」と思いながら、生きていただきたい。そのようにすると、もしかしたら少し、元気が出るかもしれません、出ないこともあります。そのときはごめんなさい。

この文書いてたら朝になっちゃった。みんなは今から起きるのかな、私と二度寝しちゃおうよ〜〜〜〜〜なーーーーーーーーんて

 

 

ね!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

 

 


それじゃあ、またね。

 


つぐみ